大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成11年(ネ)3795号 判決

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  1 被控訴人福屋不動産株式会社は、控訴人に対し、金四〇〇万円及びこれに対する平成一〇年九月四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2 控訴人の被控訴人福屋不動産株式会社に対するその余の請求を棄却する。

三  被控訴人全国宅地建物取引業保証協会は、控訴人が平成八年一〇月二日付けでなした宅地建物取引業法六四条の八第二項の認証申出にかかる四〇〇万円のうち三〇〇万円につき認証せよ。

四  訴訟費用は第一、第二審を通じ被控訴人らの負担とする。

五  この判決は右二の1に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人福屋不動産株式会社は、控訴人に対し、金四〇〇万円及びこれに対する平成六年四月五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人全国宅地建物取引業保証協会は、控訴人が平成八年一〇月二日付けでなした宅地建物取引業法六四条の八第二項の認証申出にかかる四〇〇万円のうち三〇〇万円につき認証せよ。

4  訴訟費用は第一、第二審を通じ被控訴人らの負担とする。

5  この判決は2項に限り仮に執行することができる。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要等

本件事案の概要、争いのない事実等、本件の争点は、原判決の「事実及び理由」中、「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。但し、原判決五頁一行目の「同年」を「平成六年」と改め、同六頁五行目から八行目までを削り、同頁九行目の「5」を「4」と、同行目の「あさひ銀行」を「株式会社あさひ銀行(以下『あさひ銀行』という。)」と、同七頁一行目の「6」を「5」と、同頁四行目の「7」を「6」とそれぞれ改める。

第三当裁判所の判断

当裁判所は、控訴人の各被控訴人に対する請求はいずれも理由があるものと判断する。その理由は、以下のとおりである。

一  前提となる事実

以下のとおり付加、訂正するほか、原判決の「第三 争点に対する判断」欄中「一 前提となる事実」(原判決一二頁一〇行目から同一五頁七行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一四頁二行目の「することにし」を「することにし、その旨新井に告げていた。」と改める。

2  同一五頁一行目末尾の次に、以下のとおり加える。

「本件土地の土地売買契約書及び建設工事請負契約書には、ローン特約条項は付されていなかったが(争いがない。)、土地売買契約書の第三条には売主の義務として、融資実行日までに明渡及び所有権移転登記手続をすることがうたわれ、第六条には、買主は売主が第三条の手続一切を完了すると同時に残代金を支払うこととされている(甲一)。なお、土地売買契約書及び建設工事請負契約書はいずれも大志側で作成したものであり、本件契約に被控訴人会社から立ち会った岡田支店長及び新井は、右の土地売買契約書及び建設工事請負契約書にローン特約条項を付加するよう大志に申入れなかった(乙五)。」

3  原判決一五頁七行目の次に改行の上次のとおり加える。

「7 控訴人は、同年三月一七日ころ、あさひ銀行(吹田支店)に対し、担当者の丸子を通じ、借入希望額を四六〇〇万円、借入希望時を同年七月、資金使途を土地付住宅購入とするローン申込みをしたが、控訴人が本件売買契約により取得する物件価額が低く、ローン審査基準に達しなかったため、同年三月三一日か四月上旬ころ、丸子は、控訴人に対し、口頭でローン取組不可との回答を伝え、申込関係書類を返却した(甲五の1ないし5、六の1、2、一七、原審及び当審控訴人本人)。

8 同年四月上旬ころ、新井は大志に対し、電話で、本件契約を白紙にして手付金を返還して欲しい旨の申入れをし、大志の市岡がその説明を求めると、岡田支店長及び新井が大志を訪れ、控訴人申込みのローンがだめになったとの説明をした。しかし、大志は、本件契約にはローン特約条項が付されていないとして、争いのない事実のとおり右の申出を断った(乙五)。

9 その後新井は、大志からの手付金返還拒否回答を控訴人に伝え、同月二〇日ころ、大志からなにわ銀行でローンの申込みをするよう指示されたとして控訴人を同銀行に同道したため、控訴人は同銀行に対しローンの申込みをした。その帰途に控訴人及び新井は大阪府庁の相談員を訪ねて対策を相談したが、控訴人はその後右のなにわ銀行に対するローンの申込みを撤回した(甲一二ないし一四、一七、二〇、原審及び当審控訴人本人)。

10 そのころ被控訴人会社の社長は、控訴人に対し、大志に対する手付金は、必ず取り戻して新たな契約の代金の一部に充てる旨述べ、新井は、ローン特約条項を付さなかったのはミスであったことを認めてその取戻しに努力する旨述べていたが、結局その取戻しはできず、控訴人は、同年七月ころ控訴人訴訟代理人の多田弁護士を依頼した。同弁護士は、大志に対する手付金返還請求訴訟を提起し、前記のとおり平成八年一月二五日言い渡された判決は控訴人の請求を棄却したが、同判決の理由とするところは、本件契約の契約書にはローン特約条項の記載がなく、本件契約締結の際、これを付すべきことの申入れや控訴人からの確認があったことを認めるに足りる証拠はないというものであり、同判決はそのころ確定した(甲一五の1、2、乙四)。

11 控訴人が控訴人マンションの売却に関し、川崎に対し、ローン特約条項を理由として白紙撤回を申し出た事実はない(弁論の全趣旨)。」

二  争点1について

控訴人は、本件契約の媒介契約において、ローン特約を付すとの明示の合意があったとし、その根拠として、控訴人は新井との間で資金計画等を詳細に打ち合わせたほか、本件契約締結時に新井及び岡田支店長に対し、「ローンが下りなかったら、間違いなく契約は白紙になるのですね。」と尋ねたところ、岡田支店長は、本件契約書のうち土地売買契約書の三条のところを示して、「中村さん、大丈夫ですよ、ほら、ここにもそのことが書いてあるでしょう。」と言ったなどと主張し、甲一七、原審控訴人本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。

しかし、控訴人は、ローンが下りなければ、本件契約が白紙になるとの認識を有していたものの(原審・当審控訴人本人)、控訴人と被控訴人会社との媒介契約書中にはローン特約条項の記載はないし(甲九。控訴人は、本件契約に関してはそもそも媒介契約書が作成されていないと主張するが、甲九には、控訴人マンションの売却と共に本件土地等の買い依頼も記載されている。)、他方、控訴人はローン特約という用語とかこれを契約条項に入れないとローンが組めない場合白紙解約ができないということを知ったのは、控訴人訴訟代理人に依頼した後であるとも供述しており(原審及び当審控訴人本人)、乙五の市岡の証人調書に照らしても、本件契約の際、控訴人と岡田支店長の間に前記のようなやりとりがあったとは認められない。

以上によれば、控訴人が本件契約にかかる被控訴人会社との媒介契約において、ローン特約を付すことを明示に合意したとの事実は認められない。

しかしながら、以下の1ないし6の事実によれば、控訴人と被控訴人会社との間には本件契約につきローン特約を付すとの黙示の合意があったというべきであり、本件契約の締結に際し、被控訴人会社が大志の作成した土地売買契約書及び建設工事請負契約書にその旨記載させなかったことは、媒介を依頼された被控訴人会社に債務不履行があったと判断される。

1  控訴人は、新井に対し、前記認定のとおり、控訴人マンションの売却及び本件土地等の購入にかかる資金計画を詳細に告げており、これによれば、控訴人マンションの売却は、本件土地建物の取得を前提とし、その資金の大半を占めるローンの実行が得られなければ、実現不可能であり、買替物件の取得なくして居住物件である控訴人マンションの売却をすることはおよそ考えられないことである。

控訴人は、前記のとおり、ローンが下りなければ、本件契約が白紙になるとの認識を有しており、被控訴人会社においても、控訴人の資金計画の説明からこのことは十分認識していたといわざるを得ない。

2  控訴人において、ローンの実行が受けられなければ、資金計画は立たず、これに代わるべき資金のあても持っていなかった(当審控訴人本人)。

3  控訴人マンションの売却に関しては、川崎のローン特約とは別に、控訴人関係のローン特約条項として、前記のとおり控訴人の買替物件の融資が得られなかった場合白紙解約とすることがうたわれている。この期限は媒介契約の有効期間である平成六年五月二三日までと認められるところ、右特約の存在は、控訴人マンションの売却契約を実際に仲介した南原(証人南原)も、ローン融資が得られない場合の控訴人の意図を認識していたことを示している。

4  本件契約中、土地売買契約書にも、控訴人の残代金の支払義務と大志の登記、引渡義務の履行期が融資実行日と定められ、控訴人の残代金調達は融資によることが前提とされていた。なお、この条項が如何なる経緯で定められたかは不明であるが、大志は新井からの説明により本件契約締結までに、控訴人の融資の必要性を認識していた(乙五)。

5  ローン融資が受けられないことを控訴人から伝えられた被控訴人会社の新井及び岡田支店長は、大志に対し直ちに本件契約の白紙解約の申入れをしているところ、この事実は、同人らが本件契約にローン特約の適用があると認識していたことを窺わせる。

6  被控訴人会社は、その後新規の買替物件の取得を勧め、内金名下に控訴人から更に金員を受領しているが、これは、控訴人に買替物件を取得させることにより控訴人マンションの売却契約が白紙解約されるのを阻止し、もって被控訴人会社に帰属すべき手数料、販売利益等の確保を意図したものと窺われる。

右に反し、被控訴人らは、<1>控訴人があさひ銀行に対し、実際にローンの申込みをした事実はない、<2>本件契約の解約の理由は、他の物件に目移りしたなどのため、控訴人の無理な返済計画に基づき、あえて、実際に受けられるはずのない高額な融資の申込みをしたことにある、<3>控訴人マンションの売却契約に付されたローン特約条項は買主である川崎保護のためであって、控訴人のためではない、<4>本件契約と控訴人マンションの売却契約の成立の先後からして、後者にローン特約があったとしても、前者にこれを付すことが黙示にも合意されたことにはならない、<5>手付金の没収は、なにわ銀行からの融資紹介に対し、控訴人が真剣に取り組まなかったことによるものである等とし、本件契約につき控訴人と被控訴人との間にはローン特約を付すとの黙示の合意もない旨主張する。

しかし、<1>については、甲六の2は弁護士法二三条の二第二項に基づく照会に対する回答であり、その回答に虚偽があるとは考えられないところであり、甲五の1ないし5の申込書類に銀行の受付印が押捺されていないことをもって、控訴人がローン融資の申込みそのものをしていないと認めることはできない。<2>については、甲一七、二〇、控訴人本人(原審及び当審)によれば、控訴人は、あさひ銀行の担当者の丸子から、概ね四三〇〇ないし四五○○万円程度の融資は可能と告げられていたため、四六〇〇万円の申込みをしたところ、物件価額が低すぎたため、融資不可能とされたものであり、控訴人が敢えて実現不可能な希望金額により融資申込みをしたとの被控訴人ら主張事実を認めることはできない(その後の取引である甲一三でも四三〇〇万円の融資の申込みを前提としている。)。また、<3>については、川崎のローン特約とは別個に控訴人のためローン特約が定められたことは前記のとおりであり、ローンが実行されない場合、控訴人はこの特約に基づき控訴人マンションの売却契約につき白紙解約を主張できるから、これが控訴人の利益に定められたことは疑いない。<4>については、確かに、本件契約の締結は平成六年三月三日であり、控訴人マンション売却契約の締結はその後である同月一一日であるうえ、明示のローン特約条項が付けられたのは、後に成立した後者の契約のみであるが、控訴人マンションの売却契約につきローン特約条項を援用して白紙解約した場合、後者の買替物件の取得は不必要になるとの双方の契約の一体不可分性からすれば、その契約締結日の先後が右のものであったとしても(なお、契約締結日は前記のとおり接着もしている。)、控訴人マンションの売却と本件土地購入の両契約の媒介を同時に委託した控訴人はもとより、これを受託した被控訴人会社としても、ローンの実行がされない場合を慮って、本件契約そのものにも、本来ローン特約が付されることを予定していたといえる。更に<5>については、控訴人本人によれば、新井は、控訴人に対し、なにわ銀行に対するローンもあさひ銀行と同様、拒否されることを見越したうえ、大志から手付金の返還を受ける口実のため、形式的な申込みをしようと誘った事実が認められるほか、あさひ銀行からの拒否の理由が前記の買替物件の担保価値の不足にあったものとすれば、控訴人が真摯に申込みをしてもローンの実行を受けられる見込は少なかったというべきであり、これをしなかったことが不誠実であるとはいえない。

以上のとおり、被控訴人らの主張は理由がなく、被控訴人会社は、控訴人との黙示の合意に基づき本件契約の仲介を受任した者として、依頼者たる控訴人が、ローンの実行が受けられない場合、万が一にも不測の損害を蒙ることがないよう、大志作成の契約書を点検し、控訴人のためにローン特約条項を明記するよう申入れるなど、予め措置すべき注意義務があったのに、右注意義務を怠り、右の措置を講じなかった債務不履行があるというべきである。

三  争点2について

被控訴人らは、前記<5>の事実をもって、本訴請求が信義則違反であると主張するほか、大志との関係で本件契約にローン特約条項が付されなかった事実は判決により確定しており、更に右の事実を争うことは相当でないとも主張する。

しかし、被控訴人会社と控訴人との媒介契約においてローン特約を付して本件契約を仲介するとの前記黙示の合意がなされたことは前示のとおりであるから、被控訴人らの右主張前段は失当というべきである。また、大志に対する請求が、ローン特約条項の不存在により排斥されたことと、被控訴人会社が右黙示の合意に基づき、大志作成の契約書を点検するなどし、控訴人のためにローン特約条項を明記するよう申入れ、ローン実行がなされないとき控訴人が不測の損害を蒙ることのないよう措置すべき注意義務があったか否かとは、全く次元を異にするから、控訴人が大志に対する敗訴判決確定後、被控訴人らに本件各請求をすることが不相当であるとか、信義則に反するとはいえないから、被控訴人らの右主張後段も理由がない。

四  争点3について

被控訴人保証協会は、本件契約の締結の際、控訴人は、重要事項の説明や契約書の読み合わせを受けたから、ローン特約条項の不存在を知らなかったことに重大な過失があると主張する。しかしながら、控訴人は控訴人マンションの取得時以外、不動産の取引経験のない一般の消費者であり、ローン特約ないしローン特約条項という用語や同条項自体を当該契約に入れない場合の法的効果につき知識を有しなかったものと認められ(当審控訴人本人)、そうとすれば、仮に控訴人が重要事項の説明等を受けたとしても、このような控訴人に過失があるということはできない。けだし、控訴人に右過失があるとすることは、被控訴人会社が報酬を得て仲介人として介在した意義を失わせ、その責任を理由なく減殺するもので相当でないからである。

五  附帯請求について

被控訴人会社に対する請求は債務不履行に基づく損害賠償であり、遅滞の時期は請求の時からである。本件訴状送達の日の翌日が平成一〇年九月四日であることは一件記録から明らかである。

第四結語

よって、控訴人の被控訴人会社に対する請求は、本判決主文二の1の限度で理由があるが、その余は理由がなく、被控訴人保証協会に対する請求は全て理由があるから、これと異なる原判決を右のとおり変更することとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武田多喜子 裁判官 正木きよみ 裁判官 三代川俊一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!